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富山に恋した日々 ジェンソン・デオキシンさん

日本滞在の最後となった今年9月、大好きな前衛美術家、草間弥生さんの展覧会に行った。刺激的な作品を見るうち「失恋」の入り口に立ったように思えた。「素晴らしい恋愛小説は、出会いとその失恋を描く」。そんな言葉を繰り返してみた。目はどんよりとなり、悲しみで胸はいっぱいだった。JETプログラムがくれた日本でのラブストーリーは終わった。 母国トリニダード・トバゴに帰った10月、就職面接を受けた。神経質になり、うまくいかなかったが「JETのことを」と聞かれたとたん、自信が戻った。明るい笑顔になり、人生で最も素晴らしい経験だと答えた。 赴任した富山県での最初の年は、春の山から流れる水のように生き生きとしていた。学校で写真撮影する朝、早起きして上等のスーツで出かけたのに、カラスのふんで汚され大笑いした。昼休みに庭で村上春樹氏の「スプートニクの恋人」を読んでいて、毛虫に刺されたこともあった。「痛い」と職員室に駆け込むと、教頭先生が手当てをしてくれたことも思い出す。 母国に戻り「一番に思い出す日本の出来事は」と聞かれる。そのたびに、親切な人々や比べようのなく美しい景色、冬を春にしてしまうほど輝く生徒の笑顔を思い出す。英語教育は最高の仕事だった。ホタルイカで知られる滑川市などで勤務したが、教えた以上に学んだことの方が多かった。 素晴らしいラブストーリーは、予期せぬ出来事に動かされるものが多い。富山県に来た5年前には、私が恋に落ちるとは思わなかった。ストーリーはロマンチックでなくシンプルだ。「おはよう」という生徒のあいさつや同僚の優しい心遣い、廊下に響く生徒の笑い声―そうした記憶だ。 富山での経験は報われない愛かと思うこともある。訪れて恋に落ちた大勢のうちの一人にすぎないとも考えてしまう。しかし「ジェンソン先生、会えなくなり寂しい」というメールを読むと、思いは通じていたんだと考え直す。「きっと、また会える」と。(寄稿) ×  × ジェンソン・デオキシン トリニダード・トバゴ出身。大学で環境や自然資源の管理を学び、08~13年、富山県で外国語指導助手として勤務。帰国後、フリーライターとして活躍。 原品: http://www.47news.jp/localnews/chiikisaisei/52/chiho_net/ English Version: JETwit.com

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